費用が安くOAも出にくいTEAS Plus商標出願はあり?実際の案件を用いて徹底解説(+代理人の必要性についての解説もあり)

trademark application process in the United States, focusing on the TEAS Plus application method and the importance of consulting with a U.S. agent
本記事では、実際の出願案件を用いてTEAS Plusを利用した商標出願プロセスとそのメリット・デメリットについて詳細に解説します。さらには代理人撤退による特異なケースだったので、アメリカの商標出願における代理人の重要性も追加で解説しました。

TEAS Plusを用いた商標登録は審査が簡単で迅速ですが、条件が厳しいため柔軟性に欠けます。そのためアメリカにおけるビジネスのニーズに合うかを見極めるためにも、アメリカの代理人と個別の相談をおすすめします。また、日本からの出願には、原則現地代理人が必要です。出願後に代理人が辞める事態は避けるべきで、このような状況を避け、スムーズな登録プロセスを確保するためには、信頼できる代理人を見つける必要があります。

目次

今回は、TEAS Plusという審査を簡略化できるオプションを用いた商標出願を紹介します。OAなしで権利化できましたが、TEAS Plusには欠点もあるので、実務レベルでどのような違いがあるのかを中心に解説します。

また、今回は途中で代理人が撤退し、代理人不在のまま権利化されてしまいました。このような状況は出願人・権利者としては好ましくないので、アメリカの商標出願における代理人の必要性についても実案件を交えて、解説してみました。

今回取り上げるTEAS Plusの商標出願

今回取り上げる商標は、『GENCHA』というマークです。

すでに権利化されており、出願から13ヶ月で登録されています。これは、2023年11月時点における平均値である14.7ヶ月(最新のデータを確認)よりも早いです。

この早期の権利化に貢献している可能性があるのが、TEAS Plusにおける出願です。

TEAS Plusとは?

TEAS Plus出願オプションは、トレードマークまたはサービスマークを最初に本登録出願する際に使用します。商標IDマニュアル(Trademark ID Manual)から商品/サービスの項目のみを選択し、これらの項目は商品/サービスを正確に記述する必要があります。

TEAS Plusは最も低い出願費用(手数料:商品・役務1区分につき250ドル)ですが、TEAS Standardよりも多くの要件があります。

詳細は、USPTOのTEAS Plus出願オプションを参照

検索方法・詳細情報へのアクセス

TSDRでシリアル番号(今回はシリアル番号:97685163で検索)やキーワードで検索する。

または、UIが最近新しくなったTrademark Searchで検索すると、ヒットします。

今回参照した『GENCHA』に関するTSDRの詳細情報はこちらからアクセスできます。

商品・サービス情報

今回の『GENCHA』という商標は、お茶関連の商品に用いられていました。

公式サイトらしいページが見つかったので、紹介します。

比較的簡単なホームページですが、e-commerceのサイトとしても機能していて、実際に購入することも可能です。

コードを見るとshopifyに関わるものがたくさんあるので、e-commerce機能はshopifyを使っているのでしょう。

日本に本社がある「Genki Lab Inc.」という会社が商品を取り扱っていますが、日本語のホームーページはなく、アメリカ向けに日本の抹茶を売るサイトであることがわかります。

商標の詳細

次に、TSDRの詳細情報に戻り『GENCHA』商標の詳細を見てみましょう。

まずマークに関する情報ですが、スタンダードの文字商標で、GENCHAという文字には(日本語を含む)外国語での意味はないと書かれています。

指定商品と役務に関しては、クラス30の1つのみで、その記載も「Matcha; Tea; Japanese green tea」とシンプルなものになっています。ちなみに、今回の出願はTEAS Plusなので、この指定商品の記載はすべて商標IDマニュアル(Trademark ID Manual)に記載されているものと完全一致します。(詳細は後ほど)

出願のベース(Basis)は1(a)となっているので、商取引における使用基準(商標法第1条(a)に基づくもの)の出願となります。つまり、出願時点ですでに商品および/またはサービスが出願されたマークを伴い、商取引されていることを意味します。

他の出願のベースについては、USPTOの公式ページにおける「What is a “filing basis”? 」を参照してください。

また、First UseとUse in Commerceが同じ日なので、ここでも日本等の外国での使用はなく、アメリカでの使用を基準に出願されていることがわかります。

First UseとUse in Commerceの違い

First Use: 世界で最初に使用された日。 マークが記載された商品および/またはサービスが最初に使用された日。

Use in Commerce:商業における最初の使用日。 マークが、商品および/またはサービスに関連して、アメリカでの商取引において最初に使用された日。

詳細に関しては、USPTOのページ内で「What Are Dates of First Use?」、「What Is the Date of First Use Anywhere?」、「What Is the Date of First Use in Commerce?」などを参照してください。

審査履歴の解説

商標の詳細で注目する点が以上なので、次に審査履歴を実際に見てみて、どのように出願、また、審査されていったのかを見てみましょう。

審査履歴の一覧

審査履歴はTSDRの詳細情報のタブを STATUSからDOCUMENTSに切り替えることで見れます。デフォルトでは最新情報が一番上に表示されますが、日付の部分をクリックすることで一番古いデータを一番上に表示することができます。

履歴を見ると、OAなく権利化できていることがわかります。これもTEAS Plusにおける出願の影響が大きいと思われます。

しかし、出願した弁護士が代理人業務の取り下げを行っていて、代理人不在で権利化されたことがわかります。

STATUSに戻り、詳細を確認すると、代理人の情報は書かれていなかったので、やはり権利化後も代理人不在という状況になっています。

代理人は必要なのか?

日本を含む外国に本籍を持つ出願人の場合、アメリカの弁護士による代理は必須です。

関連記事:特許庁が外国からの商標出願にアメリカ弁護士の代理人を義務づける

商標規則では、すべての出願人に本籍地の住所の開示が要求されます。その際に、出願人および登録者が外国籍であれば、米国弁護士資格を有する弁護士が代理人になることが必須になっています。これは出願時にも、また、登録後も原則必要になります。

つまり、今回のように日本国籍の出願人でありながら登録弁護士が記載されていないということは原則ありえません。もし何らかの理由で出願や登録後に代理人不在になったとしても、更新手続き等、USPTOとの手続きが発生する際は、新しく代理人を指定し、その上で、手続きをこなうことが必要になると思われます。

代理人の必要性に関する詳細はUSPTOのページを参照してください。

出願内容の詳細

では、実際の出願における記載内容を見ていきましょう。

まず、TEAS Plusよる出願ということが赤文字で強調されています。TEAS Plus出願は通常の出願よりも条件が厳しい反面、費用も安く、審査も簡素化されます。そのため、出願書類においてもTEAS Plusであることが明確にわかるようになっています。

TEAS Plusにおける指定商品の概要の確認

この部分はすでに説明してあるので、解説は省略しますが、指定商品の概要に記載されている名目はすべて商標IDマニュアル(Trademark ID Manual)に記載されています。

実際に確認してみると、以下のようなことがわかります

記載が完全一致するだけでなく、クラスも出願したものと同じである必要があります。

使用証明の解説

次に使用証明の標本(SPECIMEN)になります。ここからは画像が3枚添付されているのがわかり、説明(SPECIMEN DESCRIPTION)を見ると、パッケージの写真であることがわかります。

ウェブサイトのスクリーンショットではないので、URLやアクセスした日付等の情報はありません。

標本の写真を確認してみると、市販パッケージだと思われる箱を異なる角度から写した写真が3つありました。

これらの内容を確認すると、今回出願した『GENCHA』というマークが指定商品の概要に明記されている「MATCHA」のすぐ上に目立つように記載されていることがわかります。

また、箱全体を見ると、バーコードや栄養成分表示があることもわかるので、商品がこの箱に入れられて販売されているということが容易に想像できます。USDAの認証マークもあるので、アメリカでの商用的な利用を示唆するように思えます。

しかし、パッケージの外観だけなので、厳密にはアメリカでの商用的な利用を絶対的に示す標本ではありません。今回はこれだけで使用証明を満たせましたが、もし追加資料を求められた場合は、先程紹介した自社のe-commereceサイトにおける商品ページやオーダー履歴などでアメリカの住所に郵送されている証拠を提示するなどの方法が考えられると思います。

マークの意味・翻訳

マーク「GENCHA」には特定の意味がないことがここで明記されています。しかし、chaについては、中国語での意味が示されています。

代理人情報

出願時はNyall Engfieldという代理人がいました。

カリフォルニアの弁護士のようで、商標を専門にした弁護士のようです。

しかし、emailのドメイン部分がカリフォルニア州の弁護士会が提供している情報とは異なります。気になって調べてみると、Amazonに特化したサービスを提供しているサイトのものでした。そのサイトで大々的に紹介されている人はSteven Popeという人なので、代理人のNyall Engfield氏はサイト経由の商標出願は自分の事務所からの出願とは別に管理しているのかもしれません。

連絡先情報としても代理人のコンタクトが使用されています。

費用

USPTOに支払う費用は、TEAS Plus出願なので$250と安くなっています。通常は、商品/サービスの1クラスにつき350ドルです。

代理人の撤退

出願から10ヶ月ほど経過した際に、代理人のNyall Engfieldの撤退(withdrawal)がありました。それを詳しく見ていきましょう。

撤退の理由として、代理人は、申請者がAmazonブランド登録に申請したく、別の弁護士がいることを明記しています。

代理人の撤退は無条件でできるわけではなく、弁護士として代理業務を途中で終える上で、出願人に対して行わなければいけないことが多岐にわたります。また、撤退する上で、弁護士は以上の撤退声明に同意しなければいけません。

代理人がいなくなるので、次の代理人の情報は何もありません。

また、連絡先も当然変わるのですが、何故か、名義が出願人になって、主要なメールアドレスとバックアップのメールアドレスが逆になっただけになってます。

通常、代理人の業務から撤退した場合、それ以降のコミュニケーションには関わりません。そのため、当然、メールアドレスも削除されるべきなのですが、今回はバックアップメールアドレスに登録されたままとなっています。

公開の通知

OAもなく審査が終わり、2023年の9月に公開通知が来ました。この時点で特許庁としては登録可能という判断で、公開から30日間の間に異議申し立て(notice of opposition)がなかった場合、登録となる旨が伝えられます。

登録証明書

期限以内に異議申し立てがなかったので、2023年12月26日に登録となりました。

審査履歴の書類へのアクセスとダウンロード方法

今回検証した「GENCHA」商標の審査履歴に関するPDFの書類はここからアクセスできます。

任意の商標審査履歴に関する書類をダウンロードする場合は、ダウンロードしたいイベントを選択し、Downloadを選択します。この際にPDFになっていると、データが見やすいです。

まとめ

TEAS Plusという審査が簡略化された商標出願ということもあり、OAなしでスムーズに権利化がなされました。しかし、TEAS Plusを満たす条件は厳しく柔軟性に欠けるため、TEAS Plusがアメリカにおけるビジネスのニーズを満たすものなのかは、現地の代理人と慎重に議論する必要があります。

さらに、今回は出願後に代理人が撤退し不在になるという珍しい状況になっています。しかし、日本国籍の出願人・権利者は、USPTOに対する手続きを行う際には現地代理人が必須になります。そのため、代理人が不在になる期間があるという事態はなるべく避けるのが賢明でしょう。