ありきたりなマークだと商標を取るのは大変?混同の恐れを解消するのに2回のOA対応が必要だった出願を徹底解説

Trademark application navigating through a legal maze, with obstacles and a green checkmark symbolizing successful registration
本記事では、実際の出願案件を用いて混同の恐れが懸念されたケースの権利化プロセスを詳細に解説します。一般的な名称を含むマークや関連する業種ですでに多数の企業が使っている名称を含むマークで商標を取ろうとする場合、審査官から混同の恐れが指摘される可能性が高くなります。

実際の商売で使う名称は気に入ったものを使いたいと思う気持ちも十分理解できますが、「ありきたりな」名称のマークだと、商標出願しても権利化が難しく、今回のケースのように審査が長期化したり、商標を取得できても、出願時よりも権利範囲を狭めた内容で妥協しないといけないことも多々あります。よって、アメリカの現地代理人とともに事前に調査を行い、出願を予定しているマークと類似する商標を特定し、戦略的な商標出願をすることが重要になってきます。

目次

今回は、すでに類似マークが存在する「ありきたりなマーク」を商標出願したケースを紹介します。文字においてもマークの対象となるサービスにおいても、すでに商標になっているマークとの共通部分が多く、混同の恐れが2回も指摘されました。

また、先行する類似マークの出願の審査結果が出るまで審査が一時ストップしてしまい、審査期間が大きく伸びてしまったのも残念な点です。最終的に、混同の恐れは解消され、無事に商標を取得できましたが、ありきたりなマークの出願は権利化が難航する可能性が高いので、出願前の商標調査を強くおすすめします。

今回取り上げる商標出願

今回取り上げる商標は、『ENSO SUSHI』というマークです。

すでに権利化されており、出願から3年弱で登録されています。これは、2023年12月時点における平均値である14.6 ヶ月(最新のデータを確認)よりもかなり遅いです。今回のケースは2回OAが来てるので、その対応で審査が平均よりも長くなってしまったことが考えられます。2回のOAの内容については、後で詳しく見ていきましょう。

また、上記の情報を見るとTEAS RFとあります。これは現在存在しない出願オプションですが、簡単に紹介します。

TEAS RFとは?

TEAS RFのRFとは Reduece Fee (費用減額)の略です。このTEAS RF出願オプションは、通常の出願 TEAS Standardと前回紹介したTEAS Plusの中間に位置するようなものでした。TEAS Plusよりも制限が厳しくなく、紙媒体ではなく電子的に審査手続きを行うことなどを条件に審査費用が少し安くなっていました。

しかし、現在はすべての商標出願が電子媒体でのみの出願・審査になっているので、2020年2月15日にTEAS RFオプションは廃止されました。

詳細は、USPTOのページを参照してください。

ロゴに関する商標出願と合わせて出願

今回紹介するマークは文字商標(左側)ですが、この文字商標の出願と同じタイミングでロゴ(右側)の商標も出願しています。これはよく行われる出願戦略で、1) 権利範囲が広い文字商標と2)ビジュアル的に特徴のあるロゴの両方を権利化することで、ブランドの保護をより包括的にする効果があります。

今回はロゴの出願履歴等の紹介は省略しますが、このような文字とロゴをセットにした出願はとても有効的なブランド保護戦略なので、参考にしていただけたらと思います。

検索方法・詳細情報へのアクセス

今回はTrademark Searchでensoと検索するとヒットします。しかし、レストラン以外で同じ文字が使われているものも混じって出てくるので、今回は商品や役務で検索結果を絞れる2つ目のテキストボックスにrestaurantと入力しています。さらに、現在有効な商標(と出願)に絞り込むとスッキリとし、上位に検索結果が今回取り上げた『ENSO SUSHI』が表示されます。

今回参照した『ENSO SUSHI』に関するTSDRの詳細情報はこちらからアクセスできます。

また、当然ですが、TSDRで今回のマークを検索することもできます。その場合はシリアル番号で参照するのが一番簡単かと思います。

商品・サービス情報

すでに検索結果の絞り込みでもキーワードとして使っていましたが、今回の『ENSO SUSHI』という商標は、レストランに関連するサービスに対する商標になります。

使用証明でも使われていた、公式サイトを見ると、カジノリゾートの中にある日本食のレストランに使われていることがわかります。

メニューを見ると、カリフォルニアロールが$13.25、日本酒がグラスで$7となっています。どうでしょう?高いですかね?

商標の詳細

次に、TSDRの詳細情報に戻り『ENSO SUSHI』商標の詳細を見てみましょう。

まずマークに関する情報ですが、スタンダードな文字商標です。しかし、ENSO SUSHIのSUSHIの部分に関しては権利を主張しないというDisclaimerが明記されています。また、『ENSO』という文字の英語翻訳は「円」であることが明記されています。

ENSOは円相という言葉で、禅に関連する用語のようです。

英語でもWikipediaに詳細が書かれています。

指定商品と役務に関しては、クラス43の1つのみ。その記載は「Restaurant services; bar services; Sushi restaurant services」までは一般的なものですが、「all of the foregoing provided exclusively at a tribal gaming enterprise called the Cache Creek Casino Resort, which is a wholly owned enterprise of the Yocha Dehe Wintun Nation, a federally recognized Indian tribe, and operating solely within Yocha Dehe's sovereign tribal territory」という記載は、出願人の特定の企業体を示すものなので、とてもめずらしいです。通常は、指定商品と役務の記載の際に、出願人や権利者の情報は入れないので、どのような経緯でそうなったのか、審査履歴に書かれていないか気になるところです。

出願のベース(Basis)は1(a)となっているので、商取引における使用基準(商標法第1条(a)に基づくもの)の出願となります。つまり、出願時点ですでに商品および/またはサービスが出願されたマークを伴い、商取引されていることを意味します。

しかし、使用日(First UseとUse in Commerce)が2020年で出願は2018年なので、出願日にはまだ使用されていなかったことになります。これは、出願時のデータでは使用意思による出願だったものが、審査中に使用したことにより、出願のベースが変更したと考えられます。

このことは、次のタブ「Basis Information (Case Level)」に書かれていました。

出願時はITU(Intent to Use、使用意思)がベースになっており、現在のベースは使用となっています。

審査履歴の解説

商標の詳細で注目する点が以上なので、次に審査履歴を実際に見てみましょう。

審査履歴の一覧

履歴を見ると、OAが2回あったことがわかります。そして、1回目のOAと2回目のOAのの間にSuspension Letterがあるので、その内容も興味深いです。

出願内容の詳細

では、まずは実際の出願における記載内容を見ていきましょう。

今回はすでに手続き上なくなったTEAS RF による出願ですが、特にRF(Reduced Fee)であることは明記されていません。

特殊な事業体

日本企業にはまったく関係のない情報ですが、今回の商標の出願人はトライバル企業といって、連邦政府公認のインディアン部族が経営する企業となります。このようなトライバル企業は特殊な税制システムの恩恵を受けることができるので、カジノなどを運営しているところが多いです。今回もそのケースです。

指定商品・役務の概要の確認

上記の商標の詳細でも指摘した通り、指定商品と役務の記載は、至ってシンプルで一般的なレストランに関わる内容が書かれています。しかし、権利化された時の記載は、以下のようにトライバル企業におけるサービスの提供が明記されています。

出願時に記載がなかったということは審査の過程でこの文言が追加されたことになります。この点については、審査履歴を追いながら解説していきます。

あと、上記の商標の詳細部分でも確認しましたが、出願のベースは1(b)になっているので、使用意思(Intent to Use, ITU)になっていることがわかります。

費用

USPTOに支払う費用は、TEAS RF出願(すでに制度は廃止)なので$275と安くなっています。通常は、商品/サービスの1クラスにつき350ドルです。

1回目のOAの内容

出願から1ヶ月ほど経過したときに1回目のOAが発行されました。OAが出される場合の出願からOA発行までの平均値は2023年12月時点で8.2ヶ月なので、OAが出願から1ヶ月で来るのはとても早いです。

この時点でのOA対応期限は6ヶ月までです。しかし、2022年12月3日より多くのオフィスアクションに対する出願人の応答時間は6ヶ月から3ヶ月へと半減されました。OA対応をする際は、まずこの対応期限を確認し、どのくらいの時間的な猶予があるのかを把握してください。

参考記事:注意:USPTOが商標のOA対応期限を大幅縮小します(12月3日から)

OAのまとめを見ると、混同の恐れ、翻訳文の必要性、免責条項の必要性の3つの拒絶理由があることがわかります。

混同の恐れ

まず混同の恐れの拒絶理由を見ると、ENSO ROLLS AND BOWLSという商標が同様の役務(Restaurant services)で登録されていることが指摘されています。

次に、マークの類似性についての分析ですが、3つの事柄が指摘されています。

まず、ENSO以外の部分は権利放棄するべきという点です。

このケースでは、「ENSO」という言葉が登録商標の主要な部分であり、残りの説明的な言葉は放棄されてると解釈されました。その理由として、出願人のマークの「SUSHI」という言葉は、出願人の寿司レストラン、バー、レストランサービスに対して単に説明的または一般的であるため、商標の商業的印象に与える影響は少なく、「ENSO」という言葉が出願人のマークのより支配的な要素(dominant element)であることが説明されています。

続いては、マークのより支配的な要素である「ENSO」が冒頭にあり、それがどう混同の恐れを招きやすいかについての説明がなされています。つまり、「ENSO」という単語が両方の商標の最初の単語であり、消費者は通常、商標やサービスマークの最初の単語、接頭辞、または音節に注目する傾向があると述べており、過去の判例を引用し、マークやラベルの最初の単語が「顕著な特徴」であり、購入者の心に強く印象づけられ、購入決定時に記憶されることが多いことを示しています。

最後に、出願されたマークとすでに登録されているマークのサービスが部分的に同一であることが指摘されており、サービスが同一またはほぼ同一である場合、商標間の類似度が高くなくても混同の恐れが十分してきされる可能性があることを過去の判例を用いて説明しています。

サービスの関連性

次にサービスの関連性についての分析がなされています。

ここではまず、出願されたマークとすでに登録されているマークの商品やサービスの類似性や関連性を分析する際、実際の使用に関する外部証拠ではなく、出願と登録に記載された商品やサービスの説明に基づいて判断されると説明されています。また、出願や登録に制限がない場合、特定された商品やサービスは、同じ貿易チャネルを通じて同じ顧客層に提供されると推定されるとしています。また、制限がなく広範囲にわたる記載は、説明されたタイプのすべての商品やサービスを包含すると推定されることが示されています。

このケースでは、出願されたマークとすでに登録されているマークの両方に「レストランサービス」として部分的に同一の記載があり、その性質、タイプ、貿易チャネル、または購入者のクラスに関する制限がありません。したがって、これらのサービスは通常の貿易チャネルを通じて提供され、同じ顧客層に利用可能であると推定されました。さらに、すでに登録されているマークの広く特定された「レストランサービス」は、出願人のより狭く特定された「寿司レストランサービス」を含むすべてのタイプの「レストランサービス」を包含していることが説明されています。

さらに商標審査官は、このケースの出願人と登録人の両方に対して同じサービスが登録された第三者の商標の証拠を添付しており、これは提供されたサービスが一つのマークの下で一つのソースから出てくる可能性があることを示していると述べています。

これらの考察に基づき、同一または密接に関連するサービスのための共有された支配的な用語(dominant term)である「ENSO」があるため、サービスのソースに関する混乱の可能性があり、商標法第2(d)条に基づき、登録は拒絶されると説明しています。

翻訳文の必要性

この文では、まず出願人が商標内のすべての外国語の単語について英語への翻訳を提出する必要があることを示されており、37 C.F.R. §§2.32(a)(9), 2.61(b)とTMEP §809に基づき、「ENSO」という言葉には翻訳が必要だと主張しています。

また、翻訳文が提案されており、実際に登録されたものにも同じ翻訳情報が記載されていました。この翻訳のサポートドキュメントとして、Wikipediaなどが参照されています。

権利放棄

この文は、出願人がマーク内の「SUSHI」という単語に対する権利を放棄する必要があることを述べています。これは、その単語が出願人のサービスの成分、質、特徴、または特性を単に記述しているため、商標の登録不可能な部分と見なされるためです。

そして、標準化された形式での放棄文を出願人が提出するよう求めています。

このOAには、拒絶で実際に参照され混同の恐れが指摘された登録済み商標、その他の拒絶で参考にされた商標、文字の意味を解釈するために参照された辞書やWikipediaなどのオンラインリソースが添付資料として含まれています。

1回目のOA対応

約6ヶ月後に1回目のOA対応がありました。

その中身を見てみましょう。

まず、表紙の部分では、前回のOAで指摘されていた翻訳文と免責条項についての言及があり、両方とも、審査官が提案した文言が出願人によって採用されています。

次に、OA対応の本文を見てみましょう。

ここでは登録商標との混同の恐れについて反論されています。

まず最初に、この文では、出願人の「ENSO SUSHI」(レストランサービス、バーサービス、寿司レストランサービス用)という商標が、以下の既存の商標と混同される可能性はないと主張しています:

  • ENSO ROLLS AND BOWLS (登録番号 4818813)、レストランサービス用、国際クラス 43。
  • ENSO TEA ACAI (出願番号 87723731, 公開済み)、クイックサービスレストラン用、国際クラス 43。
  • ENSO TEA BAR (出願番号 87723733, 公開済み)、クイックサービスレストラン用。

これらの商標はOAで引用された商標ですが、出願人は、それぞれの商標の外観、音、意味、全体的な商業印象の違い、および共通の用語「Enso」の使用に基づいて、混同の可能性拒否は不適切であると主張しています。

混同の恐れが存在するかどうかを判断する際、商標庁は「du Pont Factors」を考慮します。しかし、すべてのdu Pont Factorsがすべてのケースで同じように関連性があるわけではありません。外観、音、意味、全体的な商業印象の違い、および引用された商標自体の共存を特に考慮して、出願人のマークが引用された商標と混同を引き起こす可能性を評価するべきであり、そのような可能性は低いと出願人は主張しています。

マークを比較した際の全体的な評価

その1つ目の理由として、全体として見れば、出願人の商標と引用商標の相違は混同の可能性を回避するのに十分であることが主張されています。

この文では、出願人の商標「ENSO SUSHI」と引用された商標との間に混同の可能性がないことが述べられています。商標を評価する際、全体として考慮する必要があり、その構成要素を適切に評価する必要があります。

その上で、比較対象が行われ、例えば、「ENSO SUSHI」は二つの単語から成り、引用された商標はそれぞれ異なる追加の単語や音節を含んでいること、また、一部の引用された商標には非ラテン文字やデザイン要素が含まれているが、出願人の商標にはこれらが含まれていないこと、などの違いが指摘されています。

過去の判例を引用し、商標に共通の用語が含まれていても、他の点での違いがある場合、混同の可能性はないと主張されています。例えば、VOGUEとCOUNTRY VOGUESのケースでは、商標間の違いが十分にあったため、混同の可能性は否定されました。

同じように、出願人は、視覚的および音声的な違いがそれぞれ独自の商業的印象を作り出し、混同の可能性を避けるのに十分であると主張しています。また、ENSO ROLLS AND BOWLSが以前の出願で拒否の根拠とされなかったことを指摘し、他の用語(たとえ記述的で放棄されたものであっても)の追加が混同の可能性を避けるのに十分であるとしています。

引用商標の権利範囲の狭さ

次に、ENSOという用語は一般的に使用されているため、商標における権利範囲は狭いと反論しています。

この文では、出願人は、「ENSO」という用語が一般的に使用されており、そのために狭い保護範囲しか受けられないと主張しています。混同の可能性を判断する際に考慮すべき要因の一つは、類似した商品やサービスに使用される類似の商標の数と性質です。

出願人は、「Enso」の英訳が「Circle」(円)であり、これは仏教思想や禅の原則で表されるシンボルの一つであり、日本の書道で最も一般的な題材の一つであると述べています。

また、インターネット検索(検索結果も添付)で明らかなように、「Enso」または音韻的同等語「Enzo」は、レストランやバー、特に日本風またはアジア風のスタイル、または禅の原則を伝えたいレストランやバーにおいて、第三者によって一般的に使用されており、「ENSO」という用語を含む引用された商標は、限定的な保護の範囲しか与えられるべきではないと出願人は主張しています。

その理解のもとであれば、引用された商標と出願人の異なる商標「ENSO SUSHI」は共存できるものであり、したがって、出願人のマークの登録を妨げるべきではないと主張しています。

翻訳と免責について

この部分はすでにこのOA対応の表紙の部分でも同様のことが書かれているので、解説は省略します。

審査の一時保留

上記のOA対応が行われた22日後、OfficeはSuspension letterを発行し、審査を一時中断・保留しました。

その内容を見てみましょう。

まず商標審査官は、出願に対する行動を保留しています。

その理由は、出願人の出願の提出日よりも早い別の商標出願があり、その別の商標出願が権利化された場合、混同の恐れが懸念されるということです。したがって、出願人の出願の提出日よりも早い別の商標出願が登録されるか放棄されるまで、本出願に対するアクションが保留されるとの通知がありました。

次に、前回のOA対応で解消されなかった拒絶理由が書かれています。前回の拒絶で用いられた商標との混同の恐れに基づく拒否は継続され、維持された旨が書かれています。その理由として、出願人のマークとすでに登録されているマークは、「レストランサービス」において同じ支配的な単語「ENSO」を共有し、「レストランサービス」、「バーサービス」、および「寿司レストランサービス」は、食事と飲み物の提供に関連するため、密接に関連しているからとしています。

また、OA対応で出願人が提出した第三者によるENSOやその同義語の市場における利用の証拠は、類似のサービスに対する「ENSO」形成マークを示した5つのウェブサイトと、「ENZO」形成マークを示した1つのウェブサイトのスクリーンプリントで構成されていましたが、これらの証拠はレストランサービスに対する「ENSO」の広範な使用を確立しておらず、拒絶に用いられた商標の登録者がその「ENSO ROLLS AND BOWLS」商標の保護を否定されるべきではないと反論しました。

次に、翻訳および放棄文の提出の拒絶が満たされ、解消されたことが示されています。

最後に、USPTOは定期的に出願のステータスチェックを行い、保留が引き続き適切かどうかを判断する旨が書かれています。また、商標審査官が、保留の根拠となる事項の状況に関して出願人に対して必要に応じて問い合わせのレターを発行し、保留が不要になった時、出願人に通知されると示されています。

今回の通知は、審査の一時保留を伝える内容のものなので、返答は必要ないと書かれています。しかし、出願人が返答を希望する場合は、USPTOのウェブサイト上にある「保留の問い合わせまたは保留の手紙への返答」フォームを利用できると書かれていました。

2回目のOA

前回の一時保留の通知に関しては返答が必要ないということだったので、出願員側からの返答はなく、その後約1年7ヶ月経ってから、やっと2回目のOAが来ました。

では、内容の方を見てみましょう。

まず、2回目のOAですが、通常の拒絶で最終拒絶(Final)ではないです。また、OA対応の期限はこのOA発行日から6ヶ月ということが示されています。

次にこの出願の審査が他の商標出願の処理が決定されるまで保留されていた旨が示され、これらの商標出願が登録されたので、保留が解消され、混同の恐れに関する拒絶が修正され、今回のOAが発行されたことが書かれています。

ここでは、混同の恐れの拒絶理由について詳しく話されています。この前半部分は、対象となる商標は登録になったものに差し替わっていたり若干変わっていますが、1回目のOAとほぼ同じ内容なので、解説は割愛します。

次に、出願人のマークと今回混同の恐れがあるとされる登録済みの商標がリストされています。

次に、混同の恐れの分析の重要要素の1つであるマークの類似度について詳しく議論されています。この部分も1回目のOAとほぼ変わらない内容ですが、1)出願人のマークおよび引用商標の支配的な文字要素は、「ENSO」の文字であること、2)出願人のマークおよび引用商標の残りの英文は単なる記述的表現であり、権利放棄されていること、この2点から本件マークの類似性を示しています。

マークそのものに関する類似性の分析の後は、マークが保護する対象の商品や役務の関連性についての分析が行われています。

これも1回目のOAとほぼ同じ内容ですが、1)両方とも同一の「レストランサービス」が対象に含まれていること、2)出願人が広義に表現した「レストランサービス」は、引用された商標に記載されているタイプのサービスをすべて包含するものと推定される、3)出願人の「バー・サービス」と「寿司レストラン・サービス」は、飲食物の提供を伴うことから、引用された商標に記載されているタイプのサービスに関連している、4)両当事者のサービスには、性質、種類、取引経路、購入者のクラスに関する制限がない、という4つの理由からマークが保護する対象の商品や役務についても引用された商標との関連性の高さが指摘されています。

よって、混同の恐れがあることから、出願されたマークの登録は拒絶されることが書かれています。

その後、引用された商標や参考にされた商標の詳細が添付されていました。

2回目のOA対応

2回目のOAが発行されてから、約5ヶ月ほど経ってから2回目のOA対応が行われました。

まずデータエントリーを見ると、役務にサービスの提供元を限定する記載が追加されていることがわかります。

その他、Attorney InformationやCorrespondence Informationに関しても変更がありましたが、形式的な変更だけなので、特に解説するようなものではありませんでした。

今回はデータエントリーのみで、書面によるOA対応はレコードに記載されていませんでした。

レコードにないEmailコミュニケーション

5月21日のOA対応で本質的な変更はデータエントリーによるサービスの提供元を限定する役務の記載のみでしたので、次の5月25日のエントリーに何か書かれていないか探してみます。

まず出願のステータスが変わっており、混同の恐れで拒絶されていたのが、5月24日付けで公開承認済み(680-APPROVED FOR PUBLICATION)となっています。つまり、このことは混同の恐れが解消されていることを意味します。

また同じファイルの審査履歴を見てみると、OA対応の他に次の日の22日にEmailによるコミュニケーションがあったような履歴が確認できます。

しかし、TSDRのデータベースにはそのようなレコードがないので、実際にどのようなコミュニケーションがあったのかは不明確です。

予想される混同の恐れの解消方法

このように混同の恐れは解消されたことは確認できますが、実際にどのように解消されたかについての情報が公開されていないので、推測してみたいと思います。

2回目のOAを見ると、「両当事者の役務には、性質、種類、取引経路、購入者のクラスに関する制限はなく、「同じクラスの購入者に対して同じ取引経路を移動すると推定される」ので、出願人のサービスと登録者のサービスは関連している。」と書かれています。

それに対し、出願人は、役務にサービスの提供元を限定する記載が追加されていることがわかります。

この部分から、出願人は役務にあえて提供元の情報を加えることで、取引経路(Channel of trade)を大きく限定し、混同の恐れがないと反論したと考えられます。

その主張に同意した審査官は拒絶を取り下げ、出願されたマークを許可する方向で手続きを進めていったのでしょう。

公開の通知

その後は、公開され、30日間の間に異議申し立て(notice of opposition)がなかったので、許可通知書が発行されています。

今回の出願は、ITU(Intent to Use)つまり使用意思による出願なので、このタイミングで、使用証明(Statement of Use)が求められます。提出期限は6ヶ月ですが、延長も可能です。

使用証明

使用意思の提出が求められた許可通知書から2週間も経たずに使用証明が提出されました。

使用証明に関するデータを見ると、すでに2020年の8月にはマークがアメリカで使われていることがわかります。すでにレストランの営業がそのときに始まっていたと推測されるので、2021年のこのタイミングで使用証明を提出することはそんなに大変ではなかったことが予想されます。

次に、提出した使用証明(specimen)は、レストランのウェブサイトのスクリーンショットとメニューのようです。どちらもウェブページへのアクセスなので、URLのアドレスとアクセスした日付が明記されています。

実際に添付されている使用証明の重要だと思われる箇所を抜粋してみました。

今回は文字商標(並行してロゴの商標出願もしていますが)なので、赤で囲った「Enso Sushi」というところに注目しました。レストランの名称だということがこのサイトのレイアウトや説明文からわかるので、これは有効な使用証明の1つだと考えられます。

次にメニューですが、ロゴが大々的に表示されていますが、文字だけの記載はありません。しかし、ロゴにも「enso sushi」と書かれているので、ロゴの使用が文字商標の使用証明になっているとも言えなくはないと思います。しかし、ここで厳密にメニューが文字商標の使用証明になっているかを考慮する必要はありません。

というのも、使用証明は1区分ごとに1つあれば十分で、今回出願している区分は1つ(INTERNATIONAL CLASS 043)です。そして、1つ目のレストランのウェブサイトは文字商標に関する有効な使用証明だと思われるので、すでに使用証明の条件を満たしており、メニューが使用証明として適切かという議論は不要になります。

また、特に1区分に対して複数の使用証明を出すことに関するペナルティはなく、複数の提出物から1つでも審査官が使用証明の条件を満たすと判断するものがあればいいので、実務上、複数の使用証明になりえるものを提出するということはよく行われます。

その後、無事に使用証明が受け入れらてた通知が来て、登録証明書が発行される直前のSnap Shotを見てみると、出願時は出願ベースが1(b)、つまり使用意思による出願だったのが、1(a)使用による出願に変更されているのがわかります。

登録証明書

使用証明も受理され、すべての審査と手続きが終わったので、2021年10月19日に登録となりました。

審査履歴の書類へのアクセスとダウンロード方法

今回検証した「ENSO SUSHI」商標の審査履歴に関するPDFの書類はここからアクセスできます。

任意の商標審査履歴に関する書類をダウンロードする場合は、ダウンロードしたいイベントを選択し、Downloadを選択します。この際にPDFになっていると、データが見やすいです。

まとめ

2回のOAが発行され、類似商標の権利化に伴う審査の一時停止もあり、出願から権利化まで多くの時間がかかった案件でした。また、マークの支配的な部分のENSOという英語では Circleと訳されるありきたりな名称で、同様のサービスであるレストランサービスでも類似する商標が多くあり、権利化が難航する場面もありました。

しかし、役務にサービスの提供元を限定する記載を行うことで、取引経路を明確にし、混同の恐れを解消したことが推測されます。この部分のやり取りに関するコミュニケーションの記録が残っていませんでしたが、2回目のOA後に本質的な変更があった点はそれだけだったので、提供元を限定することで、うまく権利化できたケースだったのでしょう。

強い商標権を取るには、同じまたは類似する業種で使われている単語は避けることをおすすめします。共通する単語が含まれている場合、今回のように混同の恐れを指摘される可能性が高く、OA対応の費用が高くなったり、権利化が困難になり、最悪出願を諦めるようなことにもなりかねません。

このような事態を避けるためにも、出願前にアメリカにおける商標調査を行い、事前に混同の恐れを指摘されるようなマークを特定し、それらを回避するような出願をすることが賢明でしょう。